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松本吉泰(教授) 分子研リポート2004 | 分子科学研究所

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Academic year: 2018

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ナノ光計測研究部門

松 本 吉 泰(教授)

A -1)専門領域:表面科学、分子分光学

A -2)研究課題:

a) 時間分解第二高調波発生による固体表面核波束ダイナミックスの研究

b)時間分解多光子光電子分光による有機半導体薄膜,および,有機半導体/金属界面における電子緩和・移動ダイナ ミックス

c) 走査型トンネル顕微鏡による銀表面における酸素消失光反応の研究 d)擬一次元表面化合物の構造揺らぎと反応

e) Pt(111)表面におけるメタノールの吸着構造と酸化反応

A -3)研究活動の概略と主な成果

a) 清浄な金属表面における光刺激脱離や多くの光化学反応が研究されてきたが,金属との相互作用による極めて迅速 な電子緩和により,その量子効率は小さい。したがって,大部分の電子励起状態にある吸着種は脱励起されるが,そ れに伴い吸着種内,あるいは,吸着種と表面間の振動が励起される。しかし,このような多くの吸着種がたどる振動 励起状態とそのダイナミックスはこれまでほとんど研究されてこなかった。そこで,本研究課題では電子状態間の 遷移に伴いどのように吸着種の振動がコヒーレントに励起でき(振動核波束の生成),また,その振動核波束のダイ ナミックスをフェムト秒領域でのポンプ・プローブ表面第二高調波発生の実験により調べた。Pt(111)表面にC sを単 原子層以下の被覆率で吸着させ,この表面における時間分解第二高調波発生を観測した。その結果,2.3 T Hzの振動 成分を持った減衰信号をきわめて高い S /N 比で観測することに成功した。これは,C sと白金表面との結合における 伸縮振動がコヒーレントに励起され,位相緩和をしていく様子をあらわしており,金属表面上でこのような振動核 波束のダイナミックスを観測した初めての例である。このきわめて高い強度の信号は C s により誘起される電子状 態間の遷移に共鳴した impulsive R aman 散乱に起因していると考えられる。また,C s が(2×2)などの超構造をとる場 合,非常に良く似た振動周波数を持つ成分が存在することを見出した。そこで,フェムト秒パルスを整形し,一連の パルス列を作りその時間間隔をちょうどどちらかの振動の周期にあわせたポンプ光により,この2つのモードのど ちらかを選択的に励起することに成功した。また,現時点では,K /Pt(111),Na/C u(111)吸着系でも振動核波束の励起 とそのダイナミックスの観測に成功している。さらに,コヒーレント励起のメカニズムを明らかにするために,密度 汎関数法による第一原理量子化学計算を行っている。

b)有機半導体を用いたE L 素子において,その薄膜中や金属との界面における電子移動や緩和がきわめて重要な素過 程である。そこで,本研究課題では紫外光電子分光により有機半導体薄膜の占有電子状態を明らかにすると共に, フェムト秒時間分解多光子光電子分光により,励起状態の緩和過程を実時間で観測した。具体的な系としてはペリ レン誘導体のPT C D A をまずとりあげた。この分子は薄膜中では第一励起一重項状態がきわめて迅速に失活し,ほと んど蛍光を発しないことが知られていたが,どのようなタイムスケールでこの無輻射遷移が起きるかはまったくわ かっていなかった。しかし,本研究の時間分解多光子光電子分光により,この励起状態が360 fsで失活することをは

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じめて明らかにすることができた。次いで,有機L E D における発光層や電子輸送層として使われる代表的なA lq3分 子と金属表面との界面における電子移動ダイナミックスを研究した。C u(111) 清浄表面にA lq3分子を吸着させ,電子 移動に直接関与する単分子層におけるA lq3分子の負イオン状態を同定することに成功した。そして,時間分解2光 子光電子分光の結果,この状態の寿命は 31 fs というきわめて短寿命であることを見出した。これは,A lq3薄膜内で のポーラロンのホッピング速度に比べて100倍近い速度で電子が金属表面へ逆移動していることを意味していおり, 金属との界面での電子移動が有機L E D 素子における効率を大きく左右することを実時間測定により明確に示すこ とができた。

c) A g(110)表面を酸化すると擬一次元表面化合物とでもいうべきA gO鎖が生成され,表面において (n×1)構造をとる。 本研究課題では,A gO鎖の光照射による消失反応のメカニズムを明らかにする目的で研究を行った。まず,X PSや質 量分析などにより,この酸化表面に紫外光を照射すると酸素原子が表面から消失し,A gO鎖がなくなると同時にC O2

が脱離することを見出した。また,炭素吸着種を注意深く表面に導入することにより,この反応においては表面上に 存在する炭素種が重要な役割を果たしていることをはじめて明らかにした。そこで,さらにST M観測によりこの酸 素消失光反応によるA gO鎖の表面構造変化を直接観測した。その結果,表面炭素原子が存在する表面ではA gO鎖が バンド状に存在し,(2×1)構造を保ったまま光反応が進行すること,また,炭素原子の存在しない清浄表面ではX PSな どの実験結果から予想されるようにまったく光反応が進行しないことを明らかにすることができた。すなわち,こ の一次元鎖の光消失反応は以下のような機構で進行することがわかった。すなわち,まず光励起により生成される ホット電子が A gO 結合の反結合性軌道へ移動することにより A gO 間の結合が緩み,もしその近傍に炭素原子があ る場合これと反応して C O が生成される。生成された C O は容易に A gO 鎖中の酸素と反応して C O2まで酸化される ことがわかっている。したがって,最終的には C O はすべて C O2として表面から脱離する。

d) 清浄なA g(110)表面に形成された擬一次元表面化合物であるA gO鎖は,表面における被覆率が小さくなるとお互い の間隔が広くなると同時に,鎖の途中で鎖の一部が直線性を乱すような構造揺らぎが起きることを S T M により観 測した。一方,この表面を C Oに曝すと C Oが容易に鎖中の酸素原子により酸化され C O2として表面から取り除かれ る反応がごく低温でも起きることがわかっている。そこで,本研究課題では,この反応効率と構造揺らぎの間の関係 を詳細に調べた。その結果,興味深いことに,A gO鎖の構造揺らぎが起きると共に,C Oの酸化反応が急激に進行する ことを見出した。これは,A gO鎖の構造揺らぎにより,C O酸化反応の活性点が動的に作られることに起因する。表面 反応では,表面におけるステップや欠陥サイトが重要な活性点であると従来から考えられている。これの活性点が 通常静的な描像でとらえられているのに対して,本研究では反応活性点が動的に作り出されることをはじめて具体 的な例として示すことができた。この概念は,表面反応のみならずクラスターなどの有限な温度における構造揺ら ぎが頻繁に起きる少数多体系における反応においてもきわめて重要といえる。

e) 白金表面におけるメタノールの反応は燃料電池においてきわめて重要である。本研究課題では,まず昇温脱離と反 射赤外分光により酸素修飾した Pt( 111) -( 2×2)O 表面におけるメタノールの反応を詳細に研究した。その結果,メタ

ノール被覆率が小さい場合には,従来の研究ではまったく観測されたことがなかったフォルムアルデヒドやフォル メートが反応中間体として生成されることをはじめて明らかにした。また,これらの中間体はC O共吸着種により不 安定化されることも明らかにした。このように,C Oは白金表面においてメタノールの酸化反応を被毒するばかりで

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B -1) 学術論文

D. INO, K. WATANABE, N. TAKAGI and Y. MATSUMOTO, “Ultrafast Excited State Dynamics in 3,4,9,10-Perylene

Tetracarboxylic Dianhydride (PTCDA) Thin Films,” Chem. Phys. Lett. 383, 261–265 (2003).

K. WATANABE, N. TAKAGI and Y. MATSUMOTO, “Direct Time-Domain Observation of Ultrafast Dephasing in Adsorbate-

Substrate Vibration under the Influence of a Hot Electron Bath: Cs adatoms on Pt(111),” Phys. Rev. Lett. 92, 57401 (4 pages) (2004).

T. SAWADA, Z. LIU, N. TAKAGI, K. WATANABE and Y. MATSUMOTO, “Reactivity of Molecular Oxygen: Conversion of Methanol to Formate at Low Temperatures on Pt(111),” Chem. Phys. Lett., 92, 334–339 (2004).

B -3)) 総説、著書

渡邊一也、高木紀明、松本吉泰, 「時間分解第2高調波測定による表面吸着原子層振動モードの時間領域観測」, 真空 47, 412–417 (2004).

松本吉泰 , 「表面反応における反応サイトの構造揺らぎによる動的創出」, 触媒 46, 558–563 (2004). 松本吉泰 , 「時間分解非線形分光法による表面ダイナミックスの研究」, レーザー研究 32, 694–700 (2004).

B -4) 招待講演

松本吉泰, 「時間分解表面第2高調波分光による表面吸着種のコヒーレント振動観測と選択的励起」, 表面科学講演会, 長 津田 , 2004 年 3 月 .

松本吉泰, 「金属表面でのアルカリ金属吸着系におけるコヒーレント表面フォノンの発生とダイナミックス」, A MO研究会, 東 京 , 2004 年 7 月 .

Y. MATSUMOTO, “Ultrafast electron dynamics at metal-organic molecule interfaces studied by time-resolved two-photon

photoelectron spectroscopy,” SPIE Annual Meeting, Denver (U. S. A. ), August 2004.

Y. MATSUMOTO, “Ultrafast electron dynamics at an Alq3-covered Cu(111) surface,” International Discussion Meeting on Tris(8-hydroxyquinoline)aluminum(III), Wako, September 2004.

渡邊一也、高木紀明、松本吉泰, 「実時間で観る表面吸着種のコヒーレント振動とその制御」, 日本物理学会2004年秋季大 会 , 青森 , 2004年 9 月 .

松本吉泰, 「フェムト秒時間分解第二高調波発生による表面吸着種の振動ダイナミックス」, 表面科学講演大会, 東京, 2004 年 11 月 .

K. WATANABE, N. TAKAGI and Y. MATSUMOTO, “Femtosecond vibrational dynamics of alkali adsorbates on metal

surfaces,” Indo-Japan Joing Workshop on Frontiers of Molecular Science Developed by Advanced Spectroscopy, Kolkata (India), December 2004.

B -6) 受賞、表彰

Hanse Wissenschaftskolleg (Fellow of Hanse Institute for Advanced Studies), Germany (2002).

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B -7) 学会および社会的活動 学協会役員、委員

日本化学会東海支部代議員 (1993-1994). 学会の組織委員

第1回 日米分子科学若手ワークショップ 組織代表者 (1991). 第8回 化学反応討議会 プログラム委員 (1992).

第51回 岡崎コンファレンス 組織委員 (1994).

分子研研究会「分子−表面ダイナミクス」 組織委員 (1995).

大阪大学 50周年記念シンポジウム「固体表面動的過程」 組織委員 (1995). IMS International C onference 組織委員 (1997).

分子構造総合討論会 プログラム委員 (1997).

Ninth International C onference on V ibrations at S urfaces 組織委員 ( 1997). 2000環太平洋国際化学会議 組織委員 (2000).

第 2回表面エレクトロニクス研究会 実行委員長 (2000). 第 2回分子科学研究会シンポジウム 組織委員 (2003).

10th Interanational W orkshop on D esorption Induced E lectronic T ransition プログラム委員(2004). 分子構造総合討論会運営委員会 幹事 (2004- ).

5th S ymposium on Ultrafast S urface D ynamics 実行委員長 (2004- ). 文部科学省、学術振興会等の役員等

日本学術振興会学術参与 (1999-2004).

科学技術・学術審議会学術分科会科学研究費補助金審査部会理工系委員会委員 (2003- ). 科学研究費の研究代表者、班長等

総合研究大学院大学グループ研究「光科学の新展開」研究代表 (1997-1999). その他

総合研究大学院大学先導科学研究科科長 (2000- ).

B -9)) 学位授与

Daisuke Ino, “Ultrafast electron transfer and relaxation dynamics at organic molecules-metal interfaces,” March 2004.

澤田健,「Pt(111)表面上でのメタノールと酸素吸着種との反応」,2004年 9 月 , 博士(理学).

B -10) 外部獲得資金

基盤研究(A )(2), 「表面ナノ構造物質を用いた反応制御」, 松本吉泰 (1999年 -2001年).

特別研究員奨励費 , 「金属表面上の自己組織化膜におけるフェムト秒電子移動ダイナミックス」, 松本吉泰 ( 2001年 -2002 年).

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C ) 研究活動の課題と展望

表面科学反応研究としては「固体表面上でのレーザー誘起反応ダイナミックス」の研究課題のもとで金属や半導体の清浄 表面に吸着した分子種の光誘起過程に開する研究に従事してきた。これをさらに発展させる方向で,2光子光電子分光,表 面第2高調波発生などの非線形分光により固体表面における超高速現象の解明,表面コヒーレントフォノンの実時間観測と 制御など,新しい観点から光誘起過程の機構と動的挙動に関する分子論的な理解を深めることに研究の主眼を置いてい る。また,原子・分子レベルの分解能を持つ走査型トンネル顕微鏡による実空間観測により,吸着種の幾何学的構造と固体 表面における反応の空間・時間発展を明らかにすることも主要な研究課題の一つである。今後は,化学種を識別する能力 を持った時間・空間分解スペクトロスコピーやマイクロスコピーの手法を新たに開発し,不均一反応の根源的な理解を促進 する。

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